【技能実習OR特定技能】フィリピンなどの外国人自動車整備士を雇用するならどっちがいいの?
自動車整備業界では、5年間での人手不足数は13,000人と言われており、外国人の雇用を検討されている企業、もしくは既に受け入れている企業が多いのではないでしょうか。
2019年4月から、「特定技能」という在留資格が新たに認められる事になりました。自動車整備士も対象職種とされており、今まで「外国人技能実習制度」に頼り切りだった外国人人自動車整備士を雇用する手段が1つ増えました。
それでは、「技能実習」と「特定技能」、それぞれどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。このあたりは、情報が錯綜していて、自動車整備業界の方からもよくご質問を頂きます。
そこで、今回は自動車整備に特化して、「技能実習」と「特定技能」の違いについてお伝えします。
目次
目的の違い
技能実習制度の目的は「日本の技術や知識を発展途上国など海外に移転することで国家発展に協力すること」です。自動車整備であれば、日本で車検制度や新しい車の整備を研修した外国人が、母国に戻りその技術を活かして活躍する事で、母国の自動車整備業界の発展に貢献する事になります。(技能実習についての基本情報)
一方、「特定技能」は日本国内では十分な人材が確保できない分野に対して、人手不足を補う目的で新設された制度になります。ただし、移民政策を行っていない日本では無限大に受け入れる事を避けるため、業界毎に受け入れ上限数を決めており、自動車整備業では、5年間で7,000人となっています。(特定技能について)
概要と違い
目的の違いについてご説明しました。続いては、受け入れるにあたって重要になる制度の違いについて項目毎に説明します。
①在留期間
技能実習生の以下のように在留期間は最大5年です。
技能実習1号:1年
技能実習2号:2年目〜3年目
技能実習3号:4年目〜5年目
※技能実習3号を取得するためには、一定の受入企業、監理団体、本人に一定の条件が必要です。
特定技能も最大5年となります。よく、「特定技能2号になれば無期限で日本にいれるのでしょ?」と言われますが、自動車整備士に関しては2020年9月現在「1号」までしか認められていません。
今の日本の制度では、外国人自動車整備士が無期限で日本にいるためには結婚もしくは、国家資格である自動車整備士資格の取得、もしくは日本の自動車整備専門学校の卒業が必要です。
②双方の移行
技能実習から特定技能へは移行が可能です。
一方で、特定技能から技能実習への移行は不可能です。
つまり、技能実習で入国した場合、特定技能と合わせると合計最大10年の滞在が可能です。
③転職の可否
技能実習生は原則として転職は許可されていません。ただし、実習先(受入企業)に重大な違反や倒産などの問題があった場合は、技能実習2号から技能実習3号へ移行する際は可能です。
一方、特定技能は同じ自動車整備業であれば、転職が許可されています。
④受入人数
技能実習は、常勤職員数の総数に応じて人数枠が限られています。
一方、特定技能の自動車整備士の受け入れには人数枠はありません。
⑤対応作業
技能実習では、必須業務と決められている作業があり、働く時間の50%はその作業に従事している必要があります。また関連作業は50%以下、周辺業務(清掃など)は1/3以下にしなければいけません。もちろん安全衛生教育は必須です。(参考)厚労省技能実習実施計画モデル例
特定技能も自動車の日常点検整備・定期点検整備・分解整備が想定されています。また、それらの業務に付随する関連業務に関しては日本人と同様に従事することが可能とされています。(参考)国土交通省:特定技能外国人受け入れに関する運用要領
「特定技能の作業自由度の方が高い」と言われますが、自動車整備の在留資格で来ている限り、自動車整備作業は必須です。通常の自動車整備作業をさせるのであれば、どちらもそこまで規制は気になりません。
⑥対応となる事業所
技能実習では、『地方運輸局長から自動車分解整備事業の認証を受けた事業場(対象とする自動車の種 類として二輪の小型自動車のみを指定されたもの及び対象とする業務の範囲を限定し て行われたものを除く)であること』とされています。
特定技能においては、『地方運輸局長から認証を受けた自動車分解整備事業場』とされています。対象とする装置の種類が限定されている事業場や、対象とする自動車の種類が二輪自動車のみの事業場も該当するので、技能実習より幅広く対応しています。
外国人の技術・日本語レベルの差
技能実習生の受け入れに能力要件はありません。ただ、前職で自動車整備職種に携わった、もしくは自動車整備の勉強をした実績がなければ技能実習機構から認定されることは難しいので、全くの素人は不可能です。
一方で、特定技能は「相当程度の知識または経験を有する者」でなければいけません。これは、日本語試験および自動車整備の技術試験(自動車整備分野特定技能評価試験)の合否において判断します。つまり、一般的には特定技能の方が、技術レベルが高い外国人ということになります。
これは制度の話です。実態はどうなのでしょうか。
日本自動車整備振興会連合会(https://www.jaspa.or.jp/mechanic/specific-skill/)に確認したところ、特定技能ビザ取得のための自動車整備分野特定技能評価試験は、技能実習2号の外国人が受験する「技能評価試験専門級」と同レベルの「技能試験3級」レベルだが、実際はもう少し簡単だそうです。
これは果たして技能レベルとして難しいのかというと、そこまで難しくありません。
ただし、これを「日本語で受験すること」はハードルが高いと言えるでしょう。外国で自動車整備の技術があって、かつ日本語の知識がある人材は決して多くはありません。そういった理由からか、現時点でも4回行われた試験の受験者数はわずか32名です。
単純に技能レベルで見た場合、決して特定技能のレベルの方が高いということは無さそうです。
実際、弊社で斡旋している技能実習生は、出国時の時点で技能評価試験専門級レベルは合格点数が取れる者ばかりです。特定技能の方が技能実習生よりも技術レベルが高いかどうかは、結局は人材を募集する送り出し機関および教育機関によって変わります。
受け入れ方法と費用〜技能実習制度〜
技能実習の場合は、まずは監理団体に受け入れ希望人数を申し込みます。その後、監理団体の提携送り出し機関が人材を募集し、面接します。
採用が決まったら、技能実習機構および入国管理局の許可を取り、在留資格認定がおりたら外国人が入国します。外国人には、入国前・入国後にそれぞれ日本語および自動車整備の講習義務が課せられており、その講習が終わったあと、企業に配属されます。(詳しくはこちら)
初期費用は、入国前後の講習費用は入国許可申請に係る手続き費用になります。
また、監理団体には毎月監理料が発生します。これは監理団体には技能実習法に従って、実習実施者および技能実習生の管理責任があり、この業務を全うするために必要な金額です。送り出し機関に対しても同様です。合わせると毎月の監理料は平均して4万〜6万が相場でしょう。(監理料は国によって異なります。企業単独型の場合はこの限りではありませんが、95%以上が団体監理型なので、ここでは団体監理型で説明します。)
受け入れ方法と費用〜特定技能〜
一方、特定技能は、複数の受け入れ方法があります。
①技能実習から移行ではない場合(新規で受け入れる場合)
日本語および技術の試験に合格する必要があります。
日本にいる留学生などの外国人でも、外国にいる方でも条件は同じですが、受けられる試験が異なります。
(1)技能及び業務上必要な日本語の能力評価
「自動車整備分野特定技能評価試験」又は「自動車整備士技能検定試験3級」
●自動車整備分野特定技能評価試験
年2回程度、フィリピンのみで行われています。(2020年9月現在)。フィリピン国内では、マニラ、セブ、ダバオで実施されています。2019年12月〜現在まで4回実施されており、受験者は32名、合格者は25名です。
●自動車整備士技能検定試験3級
既に留学生などの形で日本にいる外国人向けです。国内において、日本自動車整備振興会連合会に申し込んで受験できます。
(2)日常生活で必要な日本語能力の評価
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」又は「日本語能力試験(JLPT)のN4以上」
ここで注意が必要な点として、外国から受け入れる場合、試験会場がフィリピンのみなので、「フィリピン人のみ」ということになります。それは問題ありませんが、(弊社も自動車整備士はフィリピン人をおすすめしております。理由はこちら)フィリピンから受け入れる場合は、フィリピン大使館の許認可およびPRAというフィリピンの人材派遣の免許のある会社との業務提携契約が必ず必要になります。フィリピンについてご存知の方であればわかりますが、一般的にこれら対フィリピンの書類をサポートなしに進める事が難しいと言われております。これら手続きをしないと、フィリピンを出国する時に外国人が止められてしまいます。フィリピンは人材ビジネスが国のメイン産業ですから、このあたりはしっかりしています。
②技能実習から移行する場合
技能実習2号を良好に修了した自動車整備の技能実習生は、特定技能1号へ移行することが可能です。①のような試験が免除されます。もちろん、「2号を修了」していればいいので、3号からの移行も可能です。
具体的には、技能実習の在留期限が終了する前に、入国管理局に「在留資格変更許可申請書」と「特定技能1号取得に必要な書類」を提出するだけです。(団体監理型で技能実習生を受け入れられている場合、多くは監理団体/登録支援機関が書類を準備するので心配はありません。)
※よくある質問として、「噴霧塗装で自動車塗装をさせていた実習生は移行可能か?」と聞かれますが、現在の日本の制度では、自動車鈑金・塗装の会社に、塗装職種の特定技能外国人を雇用することは不可となります。
実習生本人が、隣で働いている整備の実習生と同じように特定技能に移行することを希望する場合がしばしばあります。その場合は、自動車整備士として、①のテストに合格するしかありません。(その場合、就職後の仕事内容は整備の仕事になります。)
①の場合は直接海外で採用活動を行うか、もしくはあっせん機関等を通じて紹介してもらうことになります。
特定技能も自社単独で受け入れることは可能ですが、こちらもまた手続きの煩雑さや、要件をクリアするには「登録支援機関」を介する事が多いです。「登録支援機関」とは、特定技能の外国人および受け入れ企業をサポートする団体で、入国管理局の許認可が必要です。登録支援機関は監理団体ほど細かい管理責任はありませんし、送り出し機関への支払いもないので、その分、平均費用は2.5〜3万円が相場だそうです。
ただし、技能実習の場合のトラブルは、要因によって監理団体/送り出し機関/受入企業の責任分担ですが、特定技能の場合のトラブルは、全て受け入れ企業の責任となります。
外国人はどちらを望むのか
外国人にとって、「日本の制度の目的」はあまり関係ないようです。
・どちらが確実に日本に行けるのか
・どちらが初期コストは安いのか
・どちらが給料は高いのか
もちろん個々人によりますが、現状では圧倒的に技能実習への募集の方が多いです。
理由としては、技能実習の場合、日本企業のサポートを得て日本語や整備の勉強をしてから入国できますが、特定技能では自分で勉強して、自分で費用を払って受験をしなければいけません。もちろん、無試験で行ける方が人気がでます。
また、「できるだけ日本に長くいたい」というニーズが高いのも、技能実習を選ばれる理由の一つです。「特定技能の方が給料はいいかも?」と言われていますが、結局地域の給料差もあるので、一概には言えません。
では制度の目的は無視なのか?と言うとそうではありません。
フィリピン人自動車整備士の多くは日本での実習のあと、母国でも自動車整備士の仕事に就きます。(フィリピンの場合、更に他の国に行く事も多いですが、日本に行った経験がある物は高い評価を受けるので、本人のキャリアアップに繋がっています。)フィリピンでは、研修施設の教師になることも人気です。
現状の特定技能の受け入れ人数
特定技能は2020年6月時点で54名(内、37名フィリピン人、11名ベトナム人)です。そのうち1名だけが、①の検定ルートで在留資格を取得しています。
なお、技能実習に関して同じように制度が始まってから約1年半後は1,849人でした。※制度が始まったのは2017年4月で、2018年19月末時点で1849人/699事業所の受け入れ実績(参照)
まとめ
自動車整備業では、特定技能の活用は技能実習からの移行がメインとなるでしょう。
上記であげたように、そもそも外国人にとってハードルが高いこと、外国人本人が技能実習を希望する割合が多い事が大きな理由です。
また、外国人を受け入れる事は決して安く済む事ではありません。また、書類手続きも多いです。そんな中、企業にとっても、技能実習で関係値を構築するところから開始したほうが、転職リスクもなく、安心して受け入れられるのではないでしょうか。
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