フィリピン人介護士の目に映る日本&そこからわかる受け入れのコツ
こんにちは。ARCH plus協同組合です。
今回は、技能実習生からみた介護の仕事、職場、日本人への印象を外国人介護士として日本にきているフィリピン人のケンジーさんにインタビューしました。
彼女の経験談を通して、受け入れ側が気をつける点なども見えてきます。技能実習生の受け入れを検討されている介護施設の方向けに、技能実習生からの目線で感じる制度/日本を知って頂き、受け入れる上で参考になれば幸いです。
目次
採用のコツ
日本へ来るときの思いは?不安はありましたか?
21歳の女の子にとって、異国の地で圧倒されることは容易に想像がつきます。中には文化に馴染めず、ホームシックになってしまい帰国する人もいます。(ちなみに、若ければ若いほどホームシックになる可能性は高いと言われています。特に男性はホームシックになる子が女性よりも多いです。)しかし、ケンジーさんにとっては、日本での初日に感じたのはただ興奮だったそうです。
21歳という若さで、海外で家族や友達と離れ介護の仕事を始めることは、とても勇気の必要な決断でした。でも、不安よりもワクワクの方が大きかったです。憧れの日本で働くこと、そして家族のために働けることに興奮しました。日本に到着した日も、見るものすべてが新しくて感動し、ここで働けることは神様からのギフトだと思いました。
技能実習生の中には、お金を稼ぐためだけに、「苦痛だが、お金のために仕方がなく日本に行く」という思いで出稼ぎにでている人もいます。ニュースを見ていると多くの外国人がそうなのではないかとも思わせますが、実際に私が見ている実習生の多くは異なります。もちろん、お金は目的の一つですが、日本で働いてみたい、学びたいという思いを持った方が大勢います。
特にフィリピン人の場合、英語が話せることから、多くの国の企業が人材を採用しにきます。お金を稼ぐだけだったら、日本でなくてもいいわけですね。オーストラリアやイギリスは日本よりも給料がいいですし、面倒な日本語も勉強しなくてもいいわけです。中東は日本よりも給料は下がりますが、日本のように入国まで6ヶ月かかったり、日本語検定4級に合格しなければなんてルールはなく、簡単に行くことができます。
採用される際は、お金だけが目的ではない人材を採用すると、意欲的に働き、職員さんともコミュニケーションを取ろうとします。「なぜ日本なのか?」「なぜ介護職種なのか?」をしっかり面接で聞くことが大切です。
やる気をあげるコツ
今の仕事は楽しめていますか?
とても魅力的な仕事です。毎日が楽しいです。
フィリピンでは週6日、1日8〜12時間働いていたので、日本での仕事は時間にゆとりを感じます。本当はもっと働きたいです(笑)
日本人の先輩達はみんな優しいです。フィリピンは多くの人が海外で働きます。差別を受ける話も聞いたことがありますが、日本人の職員はみんな外国人介護士を平等に扱ってくれます。そして私達が理解するまで、ちゃんと説明してくれます。みんな忙しいのに、少し申し訳ないです。
日本での現在の仕事について聞かれたとき、ケンジーは魅力的だと答えました。「なんでも楽しめる」というのはフィリピン人としての資質の一つなのかもしれません。
また資質とは別に仕事を面白いと思ってもらうコツがあります。それは仕事の「意味」をしっかり伝えることです。言葉の壁があると、どうしても説明を省いてしまったり、指示だけして正しくできていればいいや、となってしまいがちですが、「なぜ今その仕事をするのか?」「なぜここまで丁寧にする必要があるのか?」を簡単でいいので伝えることで、外国人介護士のやる気はぐんと上がります。また、よく言われることですが、外国人はわかっていなくても「わかった」と言います。悪気があるわけではなく、本当になんとなくわかってはいるのですが、こちらの意図と違ったり、理解が浅いのです。また、先輩は忙しいから早くしなきゃ!という焦りもあるそうです。
理解していなさそうだな、と思ったら、しっかり「本当に大丈夫?」と聞くことが大切です。また、忙しそうにしていると遠慮して聞けません。外国人が質問したり、「わからない」という間を与えてあげることがとても重要になります。
また、少し話はそれますが、技能実習は残業はNGと誤解されている方も多いですが、36協定の範囲内なら可能です。ケンジーはフィリピンでの仕事の方がハードだったといいます。彼女に限らず、多くのフィリピン人、特に看護師はもっと長時間働くことに慣れているため、働き方改革下の日本では労働時間が短く感じる人が多いです。そして、多くのフィリピン人が残業をしたいといいます。
トラブル解決のコツ
職場でトラブルはありましたか?
トラブルではないですが、驚いたことがあります。
先輩の職員の方に頭を撫でられました。
その日は慌てて、組合のフィリピン人スタッフの方に電話で相談しました。スタッフの方いわく、日本では大人でもとても年齢差があったり、相手が若かったりすると頭を撫でることも愛情表現だと聞きました。特に私は日本人の先輩からみたら、言葉も片言で若くみえるんだと聞きました。
私が若く、先輩は高齢の女性だったので、愛情表現で頭を撫でたのだと理解することができ、安心しました。
このようなトラブルはしばしばあります。ケンジーはその場はやり過ごし、あとでフィリピン人スタッフに相談できたので良かったですが、その場で怒ってしまったり、避けるようになってしまったり、誤解が解けないままぎくしゃくすることもありえます。
このような問題を解決する方法は2つあります。
1つは、技能実習生向けに相談できる母国のスタッフがいること。日本人だと気づかない文化の差も、長く日本にいる母国の人間であれば理解することができます。社内で用意することは難しいと思いますので、監理団体にいれば問題ありません。また、社内に同じ国籍の方がいたとしても、職場の問題は相談しづらいこともありますよね。
2つ目は入国前にできるだけ、日本の文化を教育し、日本人スタッフと関わりを持つことです。彼女はフィリピンの学校では日本語だけではなく、日本の文化を学び、多くの日本人スタッフともコミュニケーションをとりました。その中で、文化の違いなどにも触れることができたので、今回も過度に驚くこともありませんでした。
上記2点のフォローがあり、ケンジーは異国で全く文化の異なる環境でも、新しい仕事に馴染むことができたようです。この「柔軟性」もフィリピンの国民性の特徴です。与えられたものに簡単に適応することができる、そして明るい国民性なので、新しい職場や職員の方ともすぐに馴染むことができます。
外国人介護士が驚くポイント
日本の介護の仕事で勉強になったことはなんですか?
彼女は、日本の設備がいかに仕事を便利にしているかについて熱弁しました。彼女は、リフティングマシンのような施設で使われている技術に驚いたそうです。
利用者を持ち上げる時に使うもので、利用者を運ぶ必要がないのです。日本には高度な技術があるだろうとは思っていましたが、それでも驚きました。また、これらの機械を使用する際には、日本人は信じられないほど慎重であることも勉強になりました。この姿勢は外国人介護士にとってとても勉強になります。
そして、日本での介護の仕事の醍醐味は、利用者さんとのコミュニケーションだと説明してくれました。
日本の介護は、生活の支援をするだけではなく、精神的な支援も積極的に行っていて勉強になります。フィリピンでの介護の国家資格の勉強でも、高齢者の気持ちについて勉強はしました。でも日本の介護の方が、より高齢者の自立について考える事が多いです。
また、利用者さんの話を聞くことは本当に楽しいです。みなさん、背景や文化が違い、利用者さんの人生を垣間見ることができます。
ケンジーさんは利用者さんに介護支援をするだけでなく、精神的な支援もしている、それが大きなやりがいだと答えたのです。
もちろん、日本語はまだまだ完璧とは程遠いです。それでも、一生懸命理解しようとして聞く姿勢が、利用者の方に喜んで頂けていると介護施設からお褒めの言葉もいただきました。
日本人職員に馴染んでもらうためのコツ
日本人の印象は?
「寛大」
これは、ケンジーさんが日本の人々に感じたことを表現するために使った言葉です。彼女は日本の人々を「寛大で、親切で、尊敬の念を持っている」と表現しました。
日本人は皆、フィリピン人技能実習生を歓迎してくれました。みなさんフレンドリーなので、言葉の壁はあまり感じませんでしたが、1人だけ、よく怒る日本人スタッフの方がいました。最初は私が仕事ができないからだと思っていたのですが、途中から言われたとおりにしているのに、なんで怒っているのかわからないことが度々あり、他のスタッフの人に相談して解決することができました。
日本での滞在期間は今6ヶ月目ですが、もう仕事仲間や利用者さんと仲良くなれました。
ケンジーの施設では、周りに外国人のいない田舎で、施設で初めての外国人介護士の受け入れが技能実習生でした。高齢の方も多く、みなさん技能実習生を温かく迎えてくれました。
しかし、介護施設によっては、「外国人介護士」を苦手とする職員がいる施設もあります。また、「過去に採用したけど、真面目働かなかった」と言われる施設もあります。大きい施設であれば、様々な人もいますから、まだ外国人に抵抗がある方がいることは決して少なくはありません。
外国人労働者も1人1人性格が異なります。それでも日本人は「外国人労働者」と一括にしてイメージをつけてしまいがちです。同様に、技能実習生から見ても「日本人職員」としてイメージを持ちます。もちろん、お互い長く接していけば、個人個人で見れるようになりますが、最初数ヶ月間は一括にしがちです。
そのため、外国人の採用に後ろ向きなスタッフの方と、技能実習生が同じ場にいた場合、その後の日本人職員との関係値構築の妨げに繋がります。特にフィリピン人は日本人と同様、相手の気持ちを読み取る力に優れています。「なぜ私は嫌われているんだろう?」「なにか悪い事をしちゃったかな?」と相談してくる実習生もしばしばいます。そうなると、他の日本人に対してもコミュニケーションをとることに臆病になってしまいがちです。
外国人労働者を採用される際は、事前に社内のスタッフの方に共有し、理解してもらうことがとても大切です。それでも「苦手」という方がいらっしゃった場合は、最初のうちだけは2人きりにならないような配慮をすることも必要です。日本人職員に「差別はするな!仲良くしろ!」と言われても、苦手な人はすぐには治りません。外国人介護士が仕事に慣れ、日本人のスタッフともコミュニケーションが取れるようになれば、自分を苦手と思っている人にあたっても、「こんな人もいるんだ」で終わります。
ちなみに、この話をすると介護施設様からこんな質問をいただきます。
外国人が苦手な利用者さまも同じ様に最初は避けたほうがいいの?
これは施設様から利用者さまへの方針によります。利用者さまが外国人を苦手な分には、あまり外国人も「あの方は私のことをまだ苦手だわ。気をつけて接しよう。」となり、日本人全体に臆病になることはないようです。
長く御社で働いてもらうためのコツ
今後の目標は?
仕事以外にも、日本はケンジーさんに希望と夢を与えてくれました。彼女は、日本により長く滞在したいと考えています。ケンジーさんはより日本に長く滞在するために、介護士としての仕事そして日本の文化をより深く知るために、彼女は毎日勉強しています。介護福祉士の勉強も始める予定です。国家資格が取れれば、技能実習の有効期限5年以降も、就労ビザを取得し、日本に滞在することが可能です。
できれば日本の介護福祉士の資格を取得して、日本でずっと働きたいです。日本語の勉強は難しいですが、どんどん楽しくなってきました。毎日少しずつ話せるようになることが、とても面白いです。だから勉強も楽しいです。
また、今年の後半には日本語能力試験(N3)の受験を予定しているため、日本語の勉強にも時間を割いています。難しいと思われるかもしれませんが、彼女はきっと合格できるはずです。
意欲的に御社で働いてもらうためのコツ
なぜ日本で働きたいの?
日本の方が他の国に比べて収入が多いというのも正直な理由の一つです。でも給料だけではありません。利用者さんからも、職員さんからも刺激を受けて、毎日の仕事が楽しいです。日本のホスピタリティー、新しい設備、そして日本人の寛大さ。これらはすべて神様からの素晴らしいギフトです。
あと、家族にも、日本に遊びに来てもらって日本を楽しんでもらいたいです。この近くには大きな公園があって、とても綺麗です。季節によって公園の雰囲気がすごく変わり、春は桜を見ることができました。家族にも桜の季節に来てほしいです。
今は、利用者さんの笑顔を見れることが、毎日の喜びだそうです。
「多くの実習生が日本に長くいたいんじゃないの?」と思われがちですが、「お給料はいいけど、毎日がつまらないから早く国に帰りたい」という子は少なくありません。もちろん、家族に早く会いたいことも帰りたい理由の一つです。
いくら給料が上がったとしても、家族と離れて暮らす彼らにとって、新しい友達やプライベートが充実しなければ毎日がつまらなく感じます。仕事が休みの日はどこに出かけていいかわからず、家でずっと寝ているという外国人労働者は大勢います。プライベートが充実しないことは仕事のパフォーマンスにも影響しますし、いくら技能実習制度が5年に延長され、その後特定技能に移行できようとも、外国人材が帰りたくなってはどうしようもありません。
「職場で刺激を受け、学んでもらう」「職員とコミュニケーションが円滑に取れる(仕事の内容以外でも)」「日本を好きになってもらう」ことは受け入れ側が彼らにしてあげる必要があります。就労目的だとはいえ、プライベートのフォローも大事です。
そのためには、仕事を与える際にただ指示するだけではなく、その「意味」をしっかり伝えること。職員とコミュニケーションが取れる環境を作ること。(常に忙しそうだと、言葉の壁がある外国人の多くは遠慮して話さなくなります。)休みの日を楽しんでもらうために近隣の観光スポットを教えてあげたりすることも有効です。
いかがでしょうか。
外国人介護士から見た職場、生活を知ることで受け入れのヒントを得ることができれば幸いです。
フィリピン人技能実習生の受け入れに興味を持たれた方は、是非以下のサイトも見てください。
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